でオンデマンドの本を出版したときのことを書きました。
今回は、この本をアマゾンKindle用の電子書籍にした経験を書きます。
できあがった電子書籍はこれです。
原稿が手元にあると案外早くできますよ。
電子書籍用のファイルを作成するまでの手順
まず、Kindle用の電子書籍を出版するまでの大まかな流れを見ておきましょう。
- 原稿を作成する
- 原稿を電子書籍用のファイル形式に変換する
- 表紙を作成する
- アマゾンのKDPでアカウントを作成する
- 原稿ファイルと表紙データをアップロードする
一番たいへんなのは、2番です。今回はこれを見ていきます。
Kindle用のファイルはさまざまな形式が可能なようです。Wordファイルでも受け付けてくれるみたいです。小説などのように「章」と「本文」だけで構成されている場合は、それがいいかもしれません。
でも、僕の原稿はドイツ語の詩とその訳があり、詩の注釈があり、さらに表やたくさんの脚注があり、とけっこう複雑なレイアウトになっています。細部まで自由にしたいと思ったので、Wordでデータファイルを用意することは考えませんでした。
以下、Kindle用の原稿を作成するために、僕が実際にやったことを述べます。
カッコ内に示したのは、それぞれの作業ごとに使うアプリです。
- 原稿をWordで作成する(Word)
- Wordの全文をマークダウンエディタにコピーする(Typora)
- テキストファイル形式で保存する(Typora)
- エディタでマークダウン記法に従って体裁を整える(EmEditor)
- ファイルをepub形式に変換する(でんでんコンバーター)
- epub形式をmobi形式にする(Kindle Previewer)
こんなふうに見ると、すさまじく大変そうですね。でも大変なのは4番のエディターでの作業くらいで、後はファイルの変換だけです。
順番に見ていきましょう。
1.原稿をWordで作成する
本当はこれが一番大変なのですが、僕の場合は、すでにNextPublishingでオンデマンド出版したときの原稿がありました。
Word原稿の整形
扉ページの削除
書籍版には、次のような扉ページがありました。
でも、扉ページはあとで「でんでんコンバーター」が自動で作成してくれるので、不要です。削除してしまいましょう。苦労してかっこよくしたのでちょっと残念です。
目次の削除
目次も「でんでんコンバーター」が自動作成してくれるので、削除します。これも苦労したのでなごり惜しいですが残しててもしょうがありません。
そもそも電子書籍にはページという概念がないのです。いろんな端末でいろんな形で表示されるからです。
扉ページと目次を削除すると、僕の本の場合は「まえがき」が最初に来ます。
2.Wordの全文をマークダウンエディターTyporaにコピーする
以上の準備を行った後で、Wordファイルをマークダウンエディタにコピーします。
ただ、この手順をすっ飛ばして、Wordの全文を直接、普通のエディタ(「メモ帳」など)にコピペしてもかまいません。つまり、次の3番「テキストファイル形式で保存する」に進ということです。
レイアウトが複雑じゃない本、たとえば小説とか実用書の場合はその方がいいでしょう。でも僕の本の場合は大きな問題があります。
それは、Wordの全文をコピーしてエディタに貼り付けると、本文中の注番号や脚注がすべて無視されるからです。注番号は半角スペースになり、脚注はそもそもコピーされません。僕の本には脚注が36個もあります。
もちろん、Wordファイルの方で先に、本文中の注番号を手打ちで打ち直し、また、脚注を「文末脚注」(後注)にして、それを本文の最後に貼り付けておくなどの方法もあります。
でも、そんな面倒なことをしなくても、フリーソフトTyporaを使うと、脚注などもすべてコピーされるのです。後で述べるようにほかにも利点があります。
Typoraをダウンロードする
Typoraは以下のページからダウンロードしてください。
わかりにくいのですが、ページの末尾に
「Typoraほしい?」とあります。Windowsならば赤枠をクリックしてインストールします。
Wordの内容をTyporaにコピペする
Typoraを起動します。
Wordファイルのテキスト全体を選択してコピーし、Typoraの右側の白い部分にペーストします。すると次のように、
左側に「アウトライン」が、右側にマークダウンで整形された原稿が表示されます。上の図では「まえがき」がWordで「見出し1」になっていたものです。Wordの「見出し1」が自動的にマークダウンの「見出し1」に変換されています。
ざっと確認してみましょう。
「見出し2」も変換されています。
ふりがなは、「薫香(くんこう)」のようにカッコ付きに変更されています。
太字やイタリックなどもきちんと変換されています。
注もちゃんとついています。
注番号は、
のように、[1]や[2]と青字でついています。
ではこの注記はどこにあるのでしょうか。Typoraのファイルの一番最後を見てください。そこに注記がまとめて置かれています。
すごいですね。
3.テキストファイル形式で保存する
ざっと確認したら、これをテキストファイル形式で保存しましょう。
Typoraのメニューの「ファイル」>「名前をつけて保存」をクリックします。僕はファイル名を「pierrot_ebook」としました。日本語じゃないほうが、アマゾンに最終的にアップロードするさいにトラブルがないかもしれません。
続いて、「ファイル名」の下にある「ファイルの種類」を「プレーンテキスト(*.txt;*text*;*.)」にしましょう。これでテキストファイル形式で保存できます。保存されたファイル名は、「pierrot_ebook.txt」となります。
なぜTyporaを使うのか?
Wordを直接テキストファイルに変換することもできます。でも、Typoraを使うと、「見出し1」「見出し2」や脚注の処理が格段に楽になります。いわば、Typoraは翻訳ソフトのようなものです。Word形式のファイルをマークダウン形式のファイルに変換してくれます。うまくいかないところは後で手作業する必要がありますが、それでもすべて手作業で行うよりずっと楽なのです。6、7割くらいは作業が終わっている感じです。
4.エディターでマークダウン記法に従って体裁を整える
「pierrot_ebook.txt」をダブルクリックすると、Windowsの場合は「メモ帳」が立ち上がり、ファイルが開かれます。ふだん使っているエディタがあれば、それがいいでしょう。僕はEmEditorを愛用しています。
先ほどのTyporaとは違って、テキストファイルは実にあっさりしています。こちらが本体で、これが変換されてTyporaでの表示のように見やすくなっていたのです。「まえがき」は
# **まえがき**
となっています。最初の#と半角スペースで、「見出し1」だということを示しています。これがマークダウン記法です。HTMLで言えば<h1>に相当します。「**」で文字列をはさむと太字になります。
注番号はすごいですね。
とわけのわからない形になっています。
これに対応する注釈のほうも、
となっています。これはどういうものなのか、実はよくわかっていません。でも後で、「でんでんマークダウン」の記法に改めます。
「でんでんマークダウン」の記法
これからは、「でんでんマークダウン」の記法に従って、テキストファイル「pierrot_ebook.txt」をひたすら修正していきます。
「でんでんコンバーター」のサイトは
で、「でんでんマークダウン」の記法は
で説明されています。
記号はたくさんあるようですが、「見出し」は終わっていますのでそれほどでもありません。人によって使うものは違っているでしょう。
「でんでんエディター」をつかえば、どんなふうに見えるのかをプレビューできます。
編集画面で次のようになっているテキストファイルの記述は、
プレビューにすると、以下のように見えます。
ためしに、先ほどのテキストファイル「pierrot_ebook.txt」をすべて貼り付けてみましょう。Previewすると、Typoraで表示されたように表示されるはずです。
「でんでんマークダウン」に従って、テキストファイルを修正していく
では、「pierrot_ebook.txt」を自分のエディタで修正していきましょう。実はこれからが大変です。
ときどき、すべてコピーして、「でんでんエディター」でプレビューしてみましょう。
一部分だけコピーして、「でんでんエディター」に貼り付けてみることもできます。
僕がやったのはだいたい次のようなことです。
- 改行がやたら入っているので削除して見た目を整える。
- 段落の冒頭は全角スペースとする。
- 空行が必要なときは、<br>を入れる。(「でんでんマークダウン」には<p></ br></p>とありますが、どちらでもいいようです。)
- 引用の冒頭に「>」をつける。
- 改ページは「===」で、「=」が3つ以上とのことだが、見やすさを考慮して、「======」と6個にした。改ページを入れた部分を「プレビュー」すると、線が引かれている。
- ルビを付け直した。どこにルビがあるのを見つけるために、半角の「(」を検索した。
- 奥付(おくづけ)の部分がどういうわけか表形式になっていたので修正。
奥付は次のようにしました。
URLは、
と「<>」で囲んであります。これでブラウザが立ち上がります。
また、メールアドレスは、
としてあり、これでクリックするとメールソフトが起動します。
さらに、問題の脚注です。
- 本文の注番号を「でんでんマークダウン」の方式に変更。
- 文書末尾の注記も修正。
注番号は、
注釈そのものは、
へと変換します。「[^1]:」の後には半角スペースあります。
これらについては、エディタの置換機能をフル活用しました。思ってたよりは簡単にできました。
なお、注釈の方は本の末尾にまとめておくことはできません。「改ページ」(「===」)をまたぐことができないのです。それで改ページまでの注記については「===」の前にまとめました。一つずつ、ファイルの末尾にあるものを切り取って移動しました。
- 表を利用
表には苦労しました。「でんでんマークダウン」にしたがって、こつこつとやるしかありません。枠線はどうなるんだろうと思っていましたが、表示されませんでした。僕にはそのほうがよかったです。
一カ所だけ図を使用しましたが、これは次のようにHTMLで記述しました。
<img src="casaquin.jpg" alt="カサキン">
<br>図 カサキン(上の部分)
</div>
画像ファイル(casaquin.jpg)は、原稿のテキストファイルとは別に用意します。本のために用意したのは、PNGでしたが、これをJPEGに変換しました。ネット上には簡単に変換してくれるサイトがあります。
その他
詩があり、引用や表があり、脚注も多かったのでけっこう苦労しました。
ペーパーバック版の場合は、余裕を持たせるために多くの余白をとりましたが、電子書籍ではまだるっこしいだけでしょうから、なるべく減らすようにしました。
また、行間などにも気を遣いました。<br>を入れれば1行空きますが、広すぎる気がしたのであまり使いませんでした。
テキストファイルと「でんでんエディター」を何度も往還して、納得できるまで手を入れましょう。
5.ファイルをepub形式に変換する
エディタでもう大丈夫となったら、テキストファイルの原稿をepub形式に変更します。
これには「でんでんコンバーター」を使います。電書ちゃん、本当にありがとうございます。
このページを開くと、次のようになっています。
まず、Windows上で、原稿「pierrot_ebook.txt」と画像「casaquin.jpg」を同じフォルダに入れておきます。同じフォルダじゃないと画像が原稿とリンクされません。
上のサイトの左の「アップロードしてね」のところにある「ファイル選択」をクリックして、原稿「pierrot_ebook.txt」と画像「casaquin.jpg」を選択します。
実はここでつまずいてしまって、まず原稿のテキストファイルをアップして、次にもう一度「ファイル選択」をクリックして画像ファイルをアップしたら、後者しかアップされていません。二つのファイルをどうやって同時にアップするのかわからず悩みました。
だいぶ苦労してから、ようやくわかりました。「ファイル選択」を押して、原稿と画像のあるフォルダに移動し、原稿ファイルをクリックし、さらにCtrlを押しながら画像ファイルをクリックすれば二つのファイルが同時に選択されるのです。これで二つのファイルを同時にアップすることができます。
後で、ふと「ヒント」を見たら、そんなふうにしろって書いてありました。やはりちゃんと読まなければダメですね。
続いて2番です。電子書籍のタイトルと作成者の名前を入れます。ここに入れたものが「扉ページ」に表示されます。こんなふうに。
なかなかかっこいいですね。これが電子書籍の1ページ目となります。
次は3番。僕は「左から右 横書き」を選びました。
4番は、「扉ページ」にチェックを入れてください。不要ならチェックしなくてもかまいません。
チェックすると、電子書籍は最終的に、「表紙画像」「扉ページ」「目次」「はじめに」という順になります。チェックしないと、「表紙画像」の次にすぐに「目次」が来ます。そうしている電子書籍も多いです。
5番の「表紙ページをスキップする」は、Kindleで電子書籍を出版する場合は必ずチェックしてください。アマゾンではアップロードのさいに、原稿ファイルと表紙画像を別々にアップするので、ここで表紙を入れてしまうとだぶってしまうようです。
(ただ、最終的に表紙を入れた形がどうなるのかを知りたい方は、試しに原稿ファイルと画像ファイルの他に表紙画像もアップして、表紙ページをスキップせずに変換してみてもいいでしょう。表紙画像を含んだepubファイルができあがります。)
なお、「自動縦中横を有効にする」は横書きの場合はどのみち適用されないので、チェックしたままでも関係ないようです。
6.epub形式をmobi形式にする
Kindle Previewerのインストール
次に、epub形式のファイルをmobi形式にします。そのために、「Kindle Previewer 3」というアプリが必要になります。
以下にアクセスして、「今すぐダウンロード」をクリックします。
「KindlePreviewerInstaller.exe」がダウンロードされますので、ダブルクリックしてインストールします。インストールが終われば、「KindlePreviewerInstaller.exe」は用済みですので、ゴミ箱に捨ててしまいましょう。
mobi形式にする
「Kindle Previewer 3」をダブルクリックします。
「ファイルをドラッグアンドドロップ」とある部分に、先ほど作成したepubファイル「pierrot_ebook.epub」をドロップしてやります。
Kindleで表示されるのと同じものが表示されます。
画像を使った場合は、それがしっかり表示されているかを確認してください。
おおっ、と堪能した後は、ファイルメニューから「エクスポート」を選びます。するとあっという間にmobiファイル「pierrot_ebook.mobi」ができあがります。
これがアマゾンに提出する原稿ファイルとなります。
表紙を作成する
次は表紙です。僕の場合、ペーパーバック版の表紙がすでにありますが、それはPNG形式でした。Kindleの電子書籍のためには、JPEGでなければなりません。
表紙をどういう形式にすればいいかは、以下に書いてあります。
これによると、
- ファイル形式:JPEGとTIFFが可能だが、JPEGを推奨
- 寸法:1,000 x 625 ピクセル以上、10,000 x 10,000 ピクセル以下。2,560ピクセル x 1,600ピクセルが理想。縦と横の寸法比が、1.6:1が理想。
- サイズ:50MB未満。画像の最低解像度は300ppi(1インチあたりのピクセル数)
とのこと。
しかし、僕は画像のことはよくわかりません。とりあえず、ペーパーバック版の表紙を利用することにしました。
ペーパーバッグ版の表紙画像は、
- PNG
- 3004 x 2150ピクセル
- 2.55MB
となっています。表紙作成者に依頼して、これを縦2560ピクセルのJPEGにしてもらいました。
- JPEG
- 2560 x 1804ピクセル
- 1.92MB
となりました。縦横比を見てみると、1.42:1です。アマゾンで理想とする1.6:1ではないのですが、日本の本では、1.4:1の比率のものも多いとのことでしたので、まあこれでとりあえず登録してみることにしました。
ただ、表紙画像は下が白いので、どこが表紙の枠なのかがはっきりしません。
先ほどのアマゾンの「電子書籍の表紙の作成」には、
表紙の境界を明確にするために、3 ~ 4 ピクセルの細い薄灰色の枠線を追加することをお勧めします。
とあります。そこで、普段使っているScreenpressoというソフトで灰色の外枠をつけました。(このソフトはフリーでも使えますが、枠線をつけるには購入しなければなりません。)
枠線は3ピクセルにしました。濃くなってので、2ピクセルでもよかったかなとも思います。
ところで、Screenpressoで外枠をつけたら、ファイルサイズが345KBになってしまいました。圧縮されたのでしょうか。画像ファイルのことはよくわかりません。
アマゾンには「圧縮すると、Kindle 端末で表示したときに表紙の品質が悪化する可能性があります」などと書いてあるので、心配になりました。画像のプロパティを見てみると、解像度は350dpiとなっています。よくわからないのですが、大丈夫かも、と思ってこれを使うことにしました。
表紙のファイル名は「cover.jpg」としておくようです。
まとめ
これで完成です。後はアマゾンのKDPでアカウントを作成し、原稿ファイル「pierrot_ebook.mobi」と表紙データ「cover.jpg」をアップロードするだけです。
アカウント登録やデータのアップロードについては詳しいサイトがたくさんありますので、それらを参照してください。
試行錯誤しながらでしたが、1週間くらいで電子書籍を出版することができました。
結構簡単に出版できるんだなという印象です。これからもいろいろ出してみたい気になりました。
なお、ペーパーバック版とKindle版のリンクですが、これについては以下を参照してください。
リンクはアマゾンがやってくれるようで、こちらからは何もする必要はありません。
みなさんもKindle本出版に挑戦してみませんか?
参考文献
- でんでんコンバーター
神アプリです。感謝してもしきれません。
- noteで長文書いたら電子書籍化してみよう【KDP個人出版】
とてもわかりやすく書かれています。これを読んだので電子書籍を出してみる気になりました。
- 海河童『さるでもできるkindle電子出版』Kindle版
何もわからない読者の立場からていねいに書かれています。ユーモアもあって、読んでいて楽しい本です。出版のしかただけでなく、電子出版というものについてもあれこれ考えさせられます。
- 【保存版】KDPで自己出版するまでの登録からアップロードまで全ての流れ総まとめ!
KDPのアカウント作成からファイルのアップロードに至るすべてが、わかりやすく説明されています。